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賃貸で防音をやろうとして最初にぶつかったのは、自分が「防音」という言葉で何を求めているのか整理できていない、という問題でした。会議の声を外に漏らしたくないのか、家の音を会議に入れたくないのか、隣の部屋の音を減らしたいのか。全部違う話です。
子どもが生まれてから、私はこの3つ全部に困りました。半年かけて手を出した範囲と、途中でやめた範囲を書きます。結論を先に言うと、賃貸でできることは想像よりずっと狭くて、期待値を下げるところから始めるのが正解でした。
吸音と遮音は別物だった
最初に躓いたのがここです。ネットで「防音」を調べると吸音材が大量に出てきますが、吸音材は音を止める材料ではありません。部屋の中で音が反射して残る時間を短くするものです。
遮音は、音を隣の空間に通さないこと。これには基本的に重さが要ります。壁が厚いとか、鉛の板が入っているとか。吸音は、部屋の中の反響を減らすこと。こちらはスポンジやフェルトのような軽くて柔らかい素材が担当します。
賃貸でできるのは、圧倒的に吸音のほうです。遮音をやろうとすると壁そのものを重くする話になるので、原状回復できる範囲を超えます。私は最初この違いを分かっておらず、吸音パネルを買って「隣の部屋の音が全然減らない」と感じていました。減らないのが正常です。
商品ページの書き方も、この誤解を後押しします。「防音」「消音」「騒音対策」と並んでいると、音を止めてくれるように読めてしまう。でも仕様のところを見ると、たいてい吸音率の話しか書かれていません。買う前に、その商品が反響を減らすものなのか、音を通さないものなのかを確かめると、期待値がずれずに済みます。
もうひとつ、賃貸の制約も先に確認しておくべきでした。うちの管理規約では、壁は原状回復できる範囲なら手を入れてよく、ネジ穴や大きな粘着跡は不可。この条件だと、重い遮音ボードを固定する方法がそもそもありません。管理会社に問い合わせたのは吸音パネルを買ったあとで、順番が逆でした。
それでも吸音は効く場面がある
ではやる意味がないかというと、そんなことはなくて、私の場合はWeb会議の声の品質に効きました。
うちの作業部屋は6畳弱のフローリングで、机の正面は白い壁。柔らかいものが少ない部屋です。手をパンと叩くと余韻が残る。この状態でマイクに向かって話すと、口から直接届く音のあとに、壁で跳ね返った音が遅れて重なります。これが「こもる」の正体のひとつでした。
買ったのは30cm角の吸音パネルで、1枚あたり300円ほどのもの。スクエア型とヘキサゴン型がありますが、私は貼りやすさでスクエアにしました。机の正面の壁に6枚だけ、口の高さを中心に貼っています。
効果は、自分の声を録音して聞き比べれば分かる程度にはありました。余韻が短くなって、輪郭がはっきりする。ただ、劇的ではありません。「言われれば分かる」レベルです。家族の音が消えるとか、隣に声が漏れなくなるとか、そういう変化は一切ありませんでした。
不満は3つ。ひとつめは見た目です。ウレタンのパネルは、部屋に貼るとどうしても業務用の雰囲気が出ます。妻からは「圧迫感がある」と言われました。全面に貼らなかったのはそれも理由です。
ふたつめは、粘着の問題。付属の両面テープで貼ると、賃貸のクロスは剥がすときに一緒に持っていかれる可能性があります。私はマスキングテープを下地に貼って、その上に両面テープを重ねる方式にしました。手間はかかりますが、退去時のことを考えると省略できません。
みっつめは、ウレタン系は経年で劣化することです。数年で表面がぼろつく、という話をよく見ます。うちはまだ半年なので確認できていませんが、消耗品として考えておくほうがよさそうです。
貼る場所については、少し調べてから決めました。口から出た音が最初に当たる面、つまり自分の正面の壁と、左右の壁のうち近いほう。この2面を押さえると効率がいいと紹介されていることが多いです。天井や床にも反射面はありますが、賃貸で天井に貼るのは現実的ではないので手を出していません。
枚数も、全面に貼る必要はありませんでした。私は6枚、面積にして0.54平方メートルだけです。部屋の壁全体からすればごく一部ですが、マイクに入る反射音は特定の経路のものが支配的なので、そこだけ潰せば体感は変わりました。全面に貼ると今度は部屋が不自然に無響になって、しゃべっていて落ち着かないという話も見かけます。
やらなかったこと、やめたこと
途中まで検討して、やめたものもあります。
ひとつめが防音カーテンです。これは実際に買いました。1万円弱の遮音等級をうたうもので、確かに厚くて重い。窓からの音は多少減った気がします。でも、うちで困っていた音は窓からではなく、部屋の扉の向こうから来ていました。的が外れていた。カーテン自体は断熱と遮光で役に立っているので無駄にはなっていませんが、防音目的としては失敗です。
ふたつめが、扉の隙間を埋めるテープです。これは検討してやめました。うちの部屋の扉は下に2cmほど隙間があって、そこから音が通っています。塞げば効くはずなんですが、この隙間は換気の通り道でもある。24時間換気が回っている家で扉下を完全に塞ぐと、空気の流れが変わります。効果より副作用が読めなかったので、やめました。
みっつめが、遮音マットを床に敷く案です。これは自分の音を階下に出さないための対策で、うちが3階なので考えました。ただ、子どもがまだ歩かない時期なので、床に伝わる音は今のところ問題になっていない。歩き始めてから考えることにして、いまは保留にしています。
よっつめが、簡易的な防音室です。組み立て式のブースが通販で売られていて、値段は10万円台から。調べてみると、確かに効果はあるようですが、うちの2LDKにあの体積を置く場所がありません。畳んで置ける寸法でもない。設置場所の問題で早々に脱落しました。持ち家で一部屋余っているなら選択肢になると思います。
結局、機材と時間割のほうが効いた
正直なところ、部屋への工事的なアプローチより、機材と生活の組み替えのほうが明らかに効きました。
会議に生活音が入る問題は、単一指向性のマイクを口元20cmに立てることでほぼ解決しています。マイクの背面を音源側に向けるだけで、部屋を触るより大きな差が出た。
集中できない問題は、作業時間を子どもが寝ている時間帯に寄せることで解決しました。午前の1時間半と、夜9時以降。設計や実装のように集中が要る作業をそこに置いて、日中は中断されても大丈夫な作業にする。壁に何を貼るより効きます。
会議の声が家に漏れる問題は、そもそもスピーカーで音を出すのをやめて、イヤホンにしたら消えました。音を出さなければ漏れない。当たり前のことなんですが、防音のことばかり考えていると、音を出さない選択肢が視界から外れます。
賃貸で防音を考えている人へ、私の整理
賃貸で音を「止める」のは、基本的に無理だと思っておくほうがいいです。管理規約で壁に手を入れられない以上、遮音性能は建物の仕様で決まっています。そこは変えられない。
変えられるのは、部屋の中の反響と、音を出す量と、音を出す時間帯です。私が半年やって効果を実感できたのはこの3つで、しかも順番としては後ろの2つのほうが効きました。
吸音パネルは、Web会議やマイク録音の品質を上げる目的なら価値があります。数千円で試せるので、失敗しても痛くない。ただ「隣の音が減る」「声が漏れなくなる」を期待して買うと、確実にがっかりします。私は一度がっかりしたので、そこだけは書いておきたかった。
次に引っ越すときは、部屋数より扉の枚数を見ると思います。作業スペースとリビングのあいだに扉が2枚挟まる間取りなら、それだけで今の悩みの大半は消えるはずなので。
この記事は音まわりの個別レビューです。在宅勤務の音を何から変えたかは在宅勤務の音問題|子どもが生まれてから全部変えたで振り返っています。

