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停電したとき、一番困るのは灯りではなく情報でした。2024年の夏、うちのマンションで2時間ほどの停電があったんですが、そのあいだスマホの回線が異様に遅くなった。SNSは開くのに10秒以上かかるし、動画は最初から諦めるレベル。近所の人が一斉に「何が起きた」と検索して回線が混んだんだと思います。
そのとき手元にあったのが、財布と一緒にカバンに入れっぱなしにしていた小型ラジオでした。電源を入れて5秒で、地域の停電情報が流れてきた。情報を取る手段は、混む経路と混まない経路を両方持っておいたほうがいいと実感した出来事です。
手回しラジオは家に置く用、これは持ち歩く用
防災用のラジオというと、ハンドルを回して発電する手回しタイプを思い浮かべる人が多いはずです。うちにもあります。ただ、あれは重いし大きい。家の備蓄棚に置いておく前提の道具で、通勤カバンに毎日入れて持ち歩くものではありません。
私が欲しかったのはそれとは別で、普段から身につけていて、被災した瞬間にすでに手元にあるラジオでした。役割が違うので、両方持つのが正解だと今は思っています。手回しは家で電池が尽きた後の最後の手段、小型は外出先で使う一次手段。この線引きをしてから、選ぶ基準がはっきりしました。
在宅勤務が中心とはいえ、私は週1回は出社しています。打ち合わせで都心まで出た日に大きな地震が来たら、家までは徒歩で3時間ほど。その道中、スマホのバッテリーは節約したいし、そもそも回線が使えるかも分からない。カバンの中に120gの機械が1つ入っているだけで、その3時間の情報密度がまるで変わります。
停電のとき、なぜスマホのネットが遅くなるのか
ここは理屈の話です。私はアプリ開発を仕事にしているので、この部分は納得したうえで備えたかった。
携帯回線は、1つの基地局に対して大勢が同時に接続する仕組みです。災害が起きると、同じエリアの全員が一斉に安否確認や情報検索を始める。すると基地局あたりの処理が飽和して、つながりにくくなります。いわゆる輻輳(ふくそう)です。加えて、基地局そのものが停電すれば非常用電源に切り替わりますが、その持続時間には限りがあります。
対してラジオ放送は一方向です。放送局が電波を出して、受信機はそれを拾うだけ。何人が聴いていても混雑しないという、通信とは根本的に違う性質を持っています。1万人が同時に聴いても、受信の品質は変わらない。この一点だけでも、備えとして持っておく理由になります。
もちろん欠点もあって、ラジオは自分から情報を取りに行けません。「うちのマンションの断水はいつ直るか」といった局所的な情報は流れてこない。あくまで広域の状況を掴むための道具で、スマホの代わりにはなりません。混む経路と混まない経路、両方という話に戻ります。
ワイドFMを知ってから、機種選びの基準が変わった
最初、私はAMラジオが自宅でまともに入らないことに悩んでいました。鉄筋コンクリートのマンションの、それも部屋の奥だとザーというノイズしか聞こえない。AMは波長が長く、建物の中に届きにくい性質があるとされています。
これを解決するのがワイドFM、正式にはFM補完放送という仕組みです。AM局の番組を、FMの周波数帯(一般に90.0MHzから95.0MHzあたり)でも同時に流している。FMのほうが建物内でも受信しやすいので、都市部のマンションではこちらのほうが実用的でした。
実際、うちのリビングでAMの周波数に合わせると聞き取れないレベルなのに、同じ局のワイドFM側に合わせると普通に会話が聞き取れます。差は歴然でした。だから機種を選ぶときは、「ワイドFM対応」あるいは「FM 76〜108MHz」と書いてあるかを最優先で確認することにしています。古いラジオはFMが90MHzまでしかカバーしていないものがあって、それだとワイドFMの局が入りません。
買ったのはライターサイズのポケットラジオ
選んだのはオーム電機のAudioComm、AM/FMポケットラジオの電池長持ちタイプ(RAD-P212S-S)です。価格は2,580円前後。家電量販店でも通販でも似た値段でした。
手に取った第一印象は「小さい」。ライターより少し大きいくらいで、シャツの胸ポケットに入ります。実測で110gほど。イヤホンが付属していて、単4電池2本で動きます。ワイドFMに対応しているので、前述のAM問題もこれで解決しました。
3,000円を切る価格帯だと機能はシンプルで、電源、選局ダイヤル、音量、AM/FM切替、それだけ。逆に言えば、被災時に説明書を読まなくても操作できます。うちの妻にも渡して1分触ってもらいましたが、迷わず局を合わせられていました。この単純さは、防災用途ではむしろ長所です。
気に入らなかった点も正直に書く
ただ、手放しで褒められる製品ではありません。不満は3つあります。
1つ目、内蔵スピーカーの音がとにかく小さい。静かな室内でボリュームを最大にして、ようやく実用範囲というレベルです。ニュースの音声はなんとか聞き取れますが、家族3人で囲んで聴くのは無理でした。この機種は事実上、イヤホンで聴く前提の道具だと思ったほうがいい。
これは避難所を想定すると、実は都合がいい面もあります。周りに人がいる場所でスピーカーを鳴らすのは迷惑ですから、イヤホンで聴くのが前提になる。ただ、うちの息子はまだ生後6ヶ月なので、私がイヤホンをすると子どもの声が聞こえなくなる。片耳だけにする運用にしています。
2つ目、選局がアナログダイヤルで微調整が難しい。デジタル表示ではないので、目盛りを見ながら勘で合わせることになります。目的の局にぴったり合わせるのに、最初は30秒くらいかかりました。しかもダイヤルが小さいので、指が滑ると行き過ぎる。手袋をした状態だとさらに厳しいはずです。
対策として、私はよく聴く局の目盛り位置を油性ペンで本体に点で印を付けました。見た目は悪いですが、暗い場所で探す手間が減ります。デジタル選局のモデルにすればこの問題は消えますが、価格が上がるのと、電池の消費が増える傾向があるので、私はアナログのままにしました。
3つ目、イヤホンのケーブルがFMのアンテナを兼ねている点。これ自体は一般的な仕様ですが、イヤホンを抜くとFMの感度が落ちます。スピーカーでFMを聴きたいときも、イヤホンを挿したまま垂らしておく必要がありました。地味に面倒です。
単4電池2本で、実際どれくらい持ったか
「電池長持ちタイプ」を名乗っているので、そこは検証しました。アルカリ単4電池2本を入れて、イヤホンで中くらいの音量、FMを流しっぱなしにして計測しています。
結果、私の環境では連続でおよそ80時間ほど鳴り続けました。丸3日以上です。スピーカーで鳴らすともっと短くなりますが、それでも数十時間は動く計算になります。カタログ値は使用条件で変わるので、あくまでうちでの数字として書いておきます。
この持続時間は、防災用として十分すぎます。停電が数日から1週間以上に及ぶ想定でも、予備の電池を4本カバンに入れておけば足りる。単4電池はコンビニでも買えるサイズなので、そこも安心材料でした。ちなみに私はカバンの内ポケットに、電池4本を小さなジップ袋に入れて常備しています。重さは合計で50gもありません。
電池を入れっぱなしにして、1台ダメにした
ここが一番の失敗談です。
実は今の機種は2台目で、1台目は別の安いラジオでした。買って防災リュックに入れて、そのまま14ヶ月ほど放置していたんです。ある日リュックの中身を点検したら、電池ボックスの中が白い粉と緑色の結晶でびっしりになっていた。電池の液漏れです。端子が腐食していて、新しい電池を入れても電源が入りませんでした。1,800円が完全に無駄になりました。
これを踏まえて、今は運用を変えています。
- ラジオ本体と電池は分けて保管する。電池は同じポーチに入れておくが、本体には入れない
- 月に1回、電池を入れて2〜3分だけ動作確認する。私はスマホのカレンダーに毎月1日で繰り返し通知を設定した
- 確認が終わったら電池を抜き、電池の残量が減っていれば普段使いのリモコンなどに回して消費する
面倒に見えますが、実際には月2分の作業です。8ヶ月続けていて、今のところ一度も忘れていません。防災グッズは買った時点がゴールではなく、動く状態を維持し続けることが本体だと、この失敗で学びました。
もう1つ小さな工夫として、本体に紙のメモを貼っています。うちの地域のNHKと民放主要局の周波数を、AMとワイドFMの両方書いたもの。パニックのときに周波数を思い出せる自信がなかったからです。マスキングテープに手書きで、10分もかからない作業でした。
最後に
このラジオを買って半年ほどになりますが、正直に言うと防災以外の場面ではほとんど使っていません。音楽はスマホで聴くし、ニュースもアプリで読む。使用頻度で言えば、月1回の動作確認だけです。
それでも手放す気がないのは、2時間の停電でスマホが役に立たなくなったあの感覚が残っているからです。あのとき情報がゼロだった数分間は、地震でも台風でもない、ただの停電だったのに落ち着かなかった。本番はあんなものでは済まないはずです。
2,580円と単4電池2本。カバンの隅で110gを占領するだけの道具ですが、通信が混む場所に自分の情報経路を全部預けないための保険としては、悪くない投資でした。手回しラジオを家に置いているなら、持ち歩く側の1台も検討する価値があります。
この記事は防災グッズの個別レビューです。在宅避難という選択肢と備え全体は在宅避難という選択肢|避難所に行かない備えのつくり方にまとめています。

