職場に置く防災グッズ|帰宅困難を想定する

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私は在宅勤務が中心で、出社は週に1日だけです。だから職場の防災を長いこと後回しにしていました。確率で言えば、被災するのはたぶん家にいる日だろうと。

ただ、よく考えると逆でした。家にいるときに被災したら、水も食料も妻も息子もそこにあります。困りますが、対処のしようがある。一方、出社日に被災したら、私は生後6ヶ月の息子と妻から20kmほど離れた場所に、手ぶらでいることになる。被害が大きいのは、確率の低いほうの日です。週1しか行かない職場だからこそ、置いておく意味がある、と考え直しました。

「歩いて帰る」は、たぶん間違った判断

職場の備えを考え始めたとき、最初に想定したのは徒歩帰宅でした。会社から自宅まで約20km。地図アプリで調べると徒歩で4時間半と出ます。学生の頃に似た距離を歩いたことがあるので、いけるだろうと思っていました。

これがまず間違いだったんですが、間違いの理由は体力ではありません。

大都市で大きな地震が起きたとき、大量の人が同時に徒歩で帰ろうとする状態を一斉帰宅と呼びます。これが問題になるのは、道路が救助や消火の車両で使われるべきタイミングだからです。歩行者が幹線道路にあふれると、緊急車両が通れなくなる。加えて、余震で建物から物が落ちてくる、火災に巻き込まれる、群集が密集して身動きが取れなくなる、といったリスクが歩いている本人にもかかります。だから内閣府や東京都の帰宅困難者対策では、発災直後はむやみに移動せず、まず職場など安全な場所にとどまるのが原則とされています。

東京都の条例でも、事業者に対して従業員が施設内にとどまれるよう3日分の備蓄を努力義務としています。3日というのは、救助活動が優先される72時間を職場でやり過ごす、という考え方です。

ここが腹落ちするまで、私は「早く帰るための装備」を考えていました。今は違います。職場に置くのは、まず職場に居続けるための装備。徒歩帰宅の装備は、状況が落ち着いてから、道路と鉄道の状況を見て判断したうえで使うものです。この順番を入れ替えると、装備の中身がかなり変わります。

会社が何を持っているか、総務に聞いた

順番が決まったので、次にやったのは重複を避けることでした。会社の備蓄と同じものを引き出しに入れても、場所を取るだけです。

総務にSlackで聞いたら、意外とあっさり返ってきました。うちの会社は在籍者数ぶんの水と、アルファ米、ヘルメット、簡易トイレを備蓄していて、保管場所は各フロアの倉庫。水は1人1日3リットルの3日分ではなく、1人あたり1.5リットルの3日分くらい、という回答でした。飲料水に絞った量です。

この回答で分かったのは2つ。会社の備蓄は「あるが、想定より少ない」ということと、倉庫の場所を私が知らなかったということ。後者のほうが深刻で、備蓄があっても、鍵を持っている総務担当が出社していない日に地震が来たらどうなるのか。これは聞いていません。次の出社日に確認するつもりです。

結果として、私の引き出しには水と食料をたくさん入れる必要はなくなりました。会社にあるものと重ねるのではなく、会社にないもの、あるいは会社のものが使えなかったときに最低限を埋めるものだけを入れる。この方針で選びました。

個人的な感想として、この「総務に聞く」が一番コストパフォーマンスが高かったです。時間にして10分、費用ゼロで、買うものが半分になった。

デスクの引き出しに入る量という制限

もう1つの制約が物理的なサイズです。うちの会社はフリーアドレスに近い運用で、固定席はありますが、袖机は3段のうち一番下の深い引き出し1つが実質的に私物用。内寸で幅35cm、奥行き45cm、深さ25cmくらい。ここに書類ケースも入っているので、防災用に使えるのは半分以下です。

ロッカーもありますが、これは全員ぶんはありません。職場の備えが続かない理由の大半は、置き場所がないことです。大きい防災リュックを買って机の下に置いた同僚がいたんですが、掃除の邪魔になって3ヶ月で家に持ち帰っていました。

それで、A5サイズくらいに収まる帰宅支援セットを1つ買いました。一晩職場で過ごす想定の1人用で、防災士監修、非常用トイレとアルミブランケット、簡易的な明かりなどが入って3,980円ほどのものです。

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薄型のポーチなので、引き出しの書類ケースの脇に立てて入りました。厚みは3cmほど。これが最大の利点で、置き場所を交渉しなくていい備えは、続きます。中身が個包装で整理されているので、引き出しの中で散らからないのも助かっています。非常用トイレが入っているのは実際に重要で、断水したビルのトイレは早い段階で使えなくなるはずです。

不満もはっきりあります。水と靴は入っていません。このサイズなので当然なんですが、「セットを買ったから職場は完了」と考えると穴が空きます。私は買った直後に1週間ほどそう思い込んでいて、後述する靴の話で気づきました。あと、アルミブランケットはこの手のセットの定番ですが、実際にオフィスの床で一晩過ごすことを考えると、これ1枚では相当寒いはずです。ビルは空調が止まると冬はかなり冷えます。

なので私は、このセットに加えて500mlの水を2本と、後述する靴を別に用意しました。セットは「土台」であって「完成品」ではない、という位置づけです。

本当に足したのは、靴と水とバッテリー

追加した3つについて、それぞれ理由があります。

私は出社日にスニーカーで行くことが多いんですが、月に1回くらいは打ち合わせで革靴です。この日に被災したら、革靴で歩くことになる。20kmを革靴で歩けるかというと、たぶん5kmで靴擦れが始まります。

これに気づいたきっかけが情けない話で、休日に息子のベビーカーを押して革靴で1時間半歩いたら、両方のかかとに水ぶくれができました。1時間半で。4時間半歩く想定の装備に靴が入っていないのは、根本的におかしいと、そこでようやく気づいた。

今は履き慣らしたスニーカーを1足、ロッカーに入れています。新品ではなく、履き慣らした古いほうを置くのがポイントです。新品の靴で長距離を歩くのは革靴と同じくらいまずい。

会社の備蓄が1人1.5リットル×3日ぶんなので、飲料としては足ります。それでも500mlを2本、引き出しに入れました。倉庫の鍵が開かない場合の保険と、実際に歩き出すと決めたときに手元にあるぶんです。徒歩帰宅を始めてから水を探すのは現実的ではありません。賞味期限は年に1回、防災の日あたりに入れ替えています。

モバイルバッテリー

これは日常的に持ち歩いているものと兼用です。家族と連絡が取れるかどうかが精神的に一番大きいので、スマホの電源だけは切らしたくない。ただし、災害時は通信が混雑して電話はほぼ繋がらないと考えたほうがいいので、バッテリーがあれば連絡が取れるという話ではありません。妻とは、電話が繋がらないときの安否確認の手順を別に決めてあります。

ライトについては、セットに簡易的なものが入っているのと、キーホルダー型を1つ鞄に入れているので追加しませんでした。ビルの階段は非常灯があっても暗いので、階段を降りる想定なら1つは要ります。

年1回、出社日に中身を出す

置いたら終わりにならないように、運用も決めました。9月最初の出社日に、引き出しから全部出して並べる。所要10分ほどです。

去年やってみて分かったのは、モバイルバッテリーの残量が42%まで落ちていたことでした。半年ほど放置していた計算です。リチウムイオン電池は放っておいても自然に減るので、置きっぱなしの充電器ほどあてにならないものはない。今は月1回、出社日に充電の残量だけ見るようにしています。

もう1つ、この点検のついでに家族と情報を共有しています。妻に「私の職場にはこれがある、たぶん初日は帰らない、3日は職場にいるつもり」と伝えておく。職場の備えは、家族が私の行動を予測できて初めて意味を持ちます。妻が「4時間半で帰ってくるはず」と思って待っていると、帰らない私を探しに出てしまうかもしれない。それが一番まずい。

最後に

職場の防災でやったことを振り返ると、買い物より先に決めたことのほうが効いています。発災直後は歩かず職場にとどまると決めたこと。総務に備蓄を聞いて、重複を削ったこと。そして、歩くと判断した日のために靴を置いたこと。

費用は3,980円のセットと、水2本と、家にあった古いスニーカー。5,000円かかっていません。週1しか行かない場所に5,000円を置いておくのは、最初は少し馬鹿らしく感じました。でも、その日に限って地震が来る可能性は、週1だからといってゼロにはならないんですよね。

この記事は防災グッズの個別レビューです。在宅避難という選択肢と備え全体は在宅避難という選択肢|避難所に行かない備えのつくり方にまとめています。

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