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防災グッズを揃えていくうちに、押し入れとリビングの収納は充実してきました。それで一度、家の中を歩いて確認したんです。避難するとき、どういう順路で外に出るのか。
寝室から出て、廊下を通って、玄関で靴を履いて、ドアを開ける。この経路の最後にある玄関に、防災用のものが何ひとつ置いてありませんでした。必ず通る場所なのに、です。
必ず通る場所なのに、何も置いていなかった
我が家はマンションの2LDK。玄関は1畳ほどの広さで、シューズボックスと傘立てがあります。置いてあるのは普段履きの靴、子どものベビーカー、宅配便の受け取り印。防災に関係するものはゼロでした。
防災グッズを収納するとき、私は「使う場所の近く」で考えていました。水はキッチン、簡易トイレはトイレの近く、リュックは寝室。理屈としては正しい。でも避難という行為は、家のどこで始まっても最後は玄関を通ります。玄関は全ての避難経路が合流する場所で、そこに何も置いていないのは設計として抜けています。
特に、夜中に地震が来た場合を想像すると穴がはっきりします。停電した部屋で、寝室からリュックを取って、暗い廊下を歩いて、玄関で靴を探す。その全部を手探りでやることになる。
まず靴。素足でガラスの上は歩けない
地震の後に一番怖いのは、床に散乱したガラスと陶器の破片です。食器棚が開いて皿が落ちる、窓ガラスが割れる、蛍光灯が砕ける。この状態で素足やスリッパで歩けば、確実に足を切ります。
足を怪我すると、その時点で避難できなくなります。歩けなければ階段も降りられないし、子どもを抱くこともできない。災害時の怪我は、治療が受けられない前提で考える必要があるので、防げるものは防いでおきたい。
置くべきは、底が厚くて硬い靴です。スニーカーでも構いませんが、靴底が薄いものは釘やガラスが貫通することがあります。靴底に鉄板や樹脂のプレートが入った踏み抜き防止のインソールを入れておくと安心度が上がります。うちは私と妻それぞれの分に、市販の踏み抜き防止インソールを入れた古いスニーカーを1足ずつ用意しました。
やってはいけないのが、サンダルやクロックスを避難用にすることです。うちは最初これでした。玄関に置きっぱなしのサンダルがあるから大丈夫だろう、と。ガレキの上を歩くのに、かかとが固定されない靴は論外でした。あと、靴下も一緒に置いています。裸足に靴を履くと、長時間歩いたときに靴擦れで動けなくなる。
停電した玄関は、想像以上に真っ暗になる
これは実際に試してみて驚いた点です。夜、家中の電気を消して玄関に立ってみました。
うちの玄関には窓がありません。リビングからの光を遮ると、本当に何も見えない。手を目の前にかざしても分からないレベルです。マンションの内廊下や、窓のない玄関は、停電すると完全な暗闇になります。月明かりも街灯も届かない。
その状態で靴を探して履くのは、想像よりずっと大変でした。左右を間違えるし、シューズボックスの扉を開けても中は真っ暗です。玄関には灯りが要るというのが、この実験で得た一番大きな結論でした。
置いたのは2つ。ひとつは、コンセントに挿しておくタイプの停電時自動点灯ライトです。普段は待機充電していて、停電を検知すると勝手に点く。取り外して懐中電灯としても使えます。もうひとつは、シューズボックスの上に置いた小型のLEDライト。手探りで届く高さに、決まった向きで置いています。
位置を固定するのが大事で、うちは「シューズボックスの上、右奥の角」と決めて、家族で共有しました。暗闇では探せないので、体が覚えている場所にないと意味がない。
置くもの、置かないもの
玄関は狭いので、何でも置くと逆に邪魔になります。うちが線を引いた基準は「避難の最初の30秒で使うか」でした。
置いたのは、靴と靴下、ライト、軍手、それにヘルメット代わりの防災ずきん。軍手はガレキやドアノブを掴むときに使うし、ガラスを掃くときにも要ります。あとは、鍵と現金の一部を入れた小さなポーチ。これだけです。
置かないと決めたのは、水と食料、簡易トイレ、それに防災リュック本体です。理由は動線を塞ぐから。玄関に大きいものを置くと、避難のときに自分が引っかかります。特にリュックは、玄関に置くと日常の出入りで蹴ることになって、結局どかされる。うちのリュックは寝室のクローゼットの手前に置いていて、寝ている時間に地震が来ることを優先した配置です。
それと、ベビーカーの置き場所は見直しました。玄関に畳んで立てかけていたんですが、地震で倒れるとドアの前を塞ぐ可能性がある。今は靴箱の脇に固定して、通路にはみ出さないようにしています。
靴を「防災用」として分けて仕舞う
避難用の靴を用意したあと、置き場所で少し悩みました。普段履きと一緒に並べると、そのうち普段履きに混ざって使ってしまう。実際、用意したスニーカーを妻がゴミ捨てに履いていったことがあって、戻ってきたときには靴箱の別の段に入っていました。
それで買ったのが折りたたみ式の透明シューズボックスです。組み立て式で積み重ねができて、前面が透明なので中身が見える。1足ずつ独立して収納できるタイプです。
透明なのが重要でした。暗い玄関でライトを当てたときに、中に何が入っているか一目で分かる。扉を全部開けて探す必要がない。それに、箱に入れて別枠にしておくと「これは避難用」という区別が視覚的に付きます。防塵と防水になるので、長期間置いておいても靴が傷みにくい。
不満もあります。組み立て式なので、パネルを差し込む構造の剛性がそこまで高くない。上に重いものを載せると歪みます。うちは2段までにしていて、それ以上積むのは避けています。それから、開口部が前面のパネルを引き上げる方式なので、暗い中で片手だと開けにくい。開ける練習を一度しておいたほうがいいです。
あと、透明なぶん中の靴が丸見えなので、玄関の見た目としてはあまり洗練されません。うちは靴箱の下段に入れているので気になりませんが、玄関に出しておくとちょっと生活感が出ます。
ドアが開かなくなったら、どこから出るか
最後に、玄関そのものが使えない場合の話です。大きな地震では、建物が変形して玄関ドアの枠が歪み、ドアが開かなくなることがあります。
対策としてよく言われるのが、揺れを感じたらまずドアを開けて避難路を確保するというものです。ただ、これは揺れている最中に玄関まで移動することを意味するので、状況によっては危険でもある。うちは、揺れが収まってすぐドアの開閉を確認する、という運用にしています。
それでも開かなかった場合、マンションならベランダが第二の経路です。隣戸との間の隔て板は蹴破れるようになっていて、隣のベランダへ移れる。ベランダに避難ハッチがある住戸なら、そこから下階へ降りられます。だから隔て板の前とハッチの上には物を置いてはいけないのですが、うちは以前ここに収納ボックスを置いていました。今はどかしてあります。
あわせて、玄関ドアをこじ開けるためのバールを1本、玄関の収納に入れました。長さ30センチほどの小さいもので、1,000円台。使う場面が来ないほうがいいものですが、閉じ込められたときに手段がゼロなのは怖い。ドアが変形していると本当に開かないので、テコの原理で隙間を作る道具は意味があります。
それと、隔て板とハッチの位置は、家族全員が知っている必要があります。うちは妻と一緒にベランダに出て、どの板が蹴破れるのか、下の階へのハッチはどこかを確認しました。10分もかからない作業です。
最後に
玄関に置いたものは、靴2足、靴下、ライト2つ、軍手、防災ずきん、小さいポーチ、それにバール。かかった費用は、シューズボックスも含めて1万円前後です。
防災の準備は、備蓄の量に目が行きがちです。水を何箱、食料を何日分。でも実際の避難は、暗い玄関で靴を履くところから始まる。その30秒に必要なものが揃っているかどうかは、備蓄の箱数と同じくらい効いてくるはずです。夜に一度、電気を全部消して玄関に立ってみると、足りないものがすぐ分かります。
この記事は防災グッズの個別レビューです。在宅避難という選択肢と備え全体は在宅避難という選択肢|避難所に行かない備えのつくり方にまとめています。

