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携帯浄水器を買うとき、私は「これがあれば川の水が飲める」と本気で思っていました。商品ページにそう書いてあったので。実際に調べていくと、その理解はかなり雑だったと分かります。
細菌と原虫は取れる。ウイルスと化学物質は製品次第。この一行を先に押さえておかないと、浄水器は「持っているのに使えない」道具になります。我が家は妻と私、生後5ヶ月の子どもの3人で都内近郊の2LDKに住んでいて、水は2Lボトルを箱で置いてあります。それでも浄水器を1台買いました。理由は、備蓄が尽きた後のことを何も考えていなかったからです。
備蓄水が尽きる日を、私は計算に入れていなかった
水の備蓄は1人1日3リットル、最低3日分、推奨1週間とされています。3人家族なら1週間で63リットル。2Lボトル換算で32本、6本入りの箱で6箱弱です。うちは押し入れの下段に4箱、キッチンのシンク下に1箱置いていて、だいたい1週間分に届くかどうかというところ。
問題はその先です。断水が1週間で終わる保証はどこにもない。給水車が来るまでの空白があるかもしれないし、給水所まで往復できない状況もありえます。備蓄というのは「尽きるまでの時間を買う行為」であって、無限ではないんですよね。当たり前のことなんですが、箱を積んだ時点で私は安心しきっていました。
携帯浄水器は、その空白を埋めるための道具です。逆に言うと、備蓄水がある間は出番がない。順番としては最後の手段で、ここを取り違えると「浄水器があるから水の備蓄は少なめでいい」という危険な結論に行き着きます。実際、買ったばかりの頃の私がそれを言い出して、妻に止められました。
取れるもの、取れないもの
携帯浄水器の中身は、多くが中空糸膜のフィルターです。細かい穴の開いたストローのような膜で水を通し、穴より大きいものを物理的にせき止める。カタログにある「0.1マイクロメートル」といった数字が、この穴の大きさです。
0.1マイクロあれば、大腸菌やサルモネラなどの細菌、クリプトスポリジウムやジアルジアといった原虫は基本的に通れません。濁りや泥、砂も止まります。ここまでは物理フィルターの得意分野です。
通ってしまうのがウイルスです。ノロウイルスなどは細菌よりさらに一桁小さく、中空糸膜だけの製品では素通りする可能性がある。ウイルスまで対応をうたう製品は、活性炭やヨウ素樹脂、あるいは0.01マイクロ級の膜など、別の仕組みを足しています。「除菌99.9999%」と書いてあっても、対象が細菌なのかウイルスなのかは別の話で、ここは商品ページを読み込むしかありません。
化学物質も苦手です。工場排水や農薬、洗剤、油。活性炭が入っていれば塩素臭やある程度の有機物は減らせますが、重金属や高濃度の化学汚染は範囲外と考えたほうがいい。海水の脱塩もできません。津波で塩水をかぶった水源に浄水器を突っ込んでも飲めるようにはならない、というのは覚えておいたほうがいい注意点です。
買ったのは1万円以下の中空糸膜タイプ
我が家が選んだのはSAKUTTOの携帯浄水器です。手のひらに収まるサイズで、防災リュックの外ポケットに入れっぱなしにしています。ペットボトルに直接ねじ込めるタイプで、吸い口から吸うだけ。電池も電気も要りません。
気に入っているのは構造が単純なことです。可動部がほぼないので、5年間押し入れに放置しても壊れる要素が少ない。ポータブル電源のように残量を気にする必要もない。防災リュックに入れておく道具としては、この「何もしなくていい」性質がかなり重要でした。
不満もあります。まず吸うのにけっこう力が要る。水道水を通して試したときですら、ストローでシェイクを飲むくらいの抵抗がありました。濁った水を通せば目詰まりが進んで、さらに重くなるはずです。それから、使った後にフィルター内部が濡れたままになる。逆流させて水を押し出すバックフラッシュをしてから乾かす手間があって、これを怠ると次に使うときが不安になります。子どもの力では吸えないので、大人が汲んで渡す前提の道具です。
電動タイプも検討しました。手回しやソーラーで充電できて、フィルターも多段式のものが2万円前後で出ています。性能は上ですが、我が家は「壊れる部品が増える」ほうを嫌って手動にしました。ここは家庭の考え方次第だと思います。
ちなみに最初に買おうとしていたのは、アウトドア用品店で見かけた3,000円台のストロー型でした。安いし軽いしで即決しかけたんですが、パッケージの裏に対応する菌の種類が一言も書かれていない。メーカー名で検索してもフィルターの孔径が出てこない。そこで一度止まって、結局この価格帯まで上げました。数字が公開されていない浄水器は、性能を確かめる手段がこちらにないんですよね。
「8000リットルろ過」という数字の読み方
浄水器のスペックで目立つのが、フィルター寿命の総ろ過量です。5000リットル、8000リットルといった数字が並びます。3人家族が1日9リットル使うとして、8000リットルなら約880日分。数字だけ見ると一生分に見えるんですよね。
ただ、これはきれいな水を通し続けた場合の理論値に近いものです。泥水や藻の多い水を通せば、膜はもっと早く詰まります。実際の交換タイミングは総量ではなく「吸っても水が出にくくなったとき」で判断するのが現実的で、その日は8000リットルよりずっと手前に来ると考えておいたほうがいい。
流量も見ておく価値があります。毎分500ミリリットル前後の製品が多く、2Lのペットボトルを満たすのに4分ほど。1人1日3リットルを3人分作るなら、単純計算で18分です。数字としては現実的ですが、それを毎日、しかも吸引の力で続けるとなると話が変わってきます。手動タイプは「1日分をまとめて作る道具」ではなく「その場で飲む道具」だと思っておくと、期待値がずれません。
結局、煮沸とセットでしか使えない
ウイルスが心配なら加熱するしかありません。一般的には沸騰後1〜3分の煮沸で多くの病原体は不活化されるとされています。浄水器で濁りと細菌を落とし、そのうえで煮沸する。この二段構えなら、片方の弱点をもう片方が埋めてくれます。
だから我が家では、浄水器をカセットコンロと同じ場所には置いていません。浄水器は防災リュック側、コンロは在宅避難用の箱側。持ち出すなら浄水器だけでも意味があるし、家に留まるなら煮沸まで回せる、という分け方です。カセットボンベの本数を数えるとき、煮沸の分を上乗せするようになったのは浄水器を買ってからの変化でした。
水源そのものの選び方も大事です。同じ「浄水器を通した水」でも、雨水を貯めたバケツと、下流に工場のある川では話がまったく違う。浄水器は水源の質を一段上げる装置であって、汚染された水を安全な水に変える魔法ではない。使うなら、できるだけ上流の、澄んだ、動いている水を選ぶ。これは説明書にも書いてあることですが、パニックの中で思い出せる自信はあまりありません。
最後に
携帯浄水器は、備蓄水の代わりにはなりません。順番は、備蓄水、給水車、そのあと浄水器です。それでも1台持っておく価値があると思うのは、断水が長引いたときに「まだ手がある」と思える差が大きいからです。手段がゼロの状態で3日目を迎えるのは、たぶん精神的にきつい。
買うときに見るべきなのは、フィルターの孔径と、ウイルス対応をうたっているかどうか、そして交換フィルターが単体で買えるかどうか。この3つです。私は3つ目を見落として買い、あとから交換品の入手性を調べ直すことになりました。次に買うときは順番を逆にします。
この記事は防災グッズの個別レビューです。在宅避難という選択肢と備え全体は在宅避難という選択肢|避難所に行かない備えのつくり方にまとめています。

