夏の防災|停電時の暑さ対策と熱中症

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去年の8月、うちのマンションで2時間だけ停電がありました。落雷の事故で、真夏の午後2時。エアコンが止まった瞬間から、部屋の温度計がじりじり上がっていくのを眺めていました。開始時27.5度、1時間後に31度、2時間後に33.8度。窓を開けても外のほうが暑いので意味がない。生後間もない息子を抱えて、正直かなり焦りました。

冬の停電なら着込めば凌げます。でも夏の停電は、着込むどころか脱ぐものがなくなる。暑さに対して、人間が自力でできることは想像よりずっと少ないというのが、あの2時間で分かったことでした。

エアコンが止まると、部屋は何度まで上がるのか

うちは都内近郊の2LDK、南西向きの角部屋で、最上階ではありません。西日が入るので条件は悪いほうですが、逆に言えばよくあるマンションの一室です。

問題は温度だけじゃなく湿度でした。停電中、湿度計は68%から74%まで上がっています。エアコンは冷やすと同時に除湿しているので、止まった瞬間から湿気が抜けなくなる。この「気温33度・湿度74%」という組み合わせが厄介で、後述する冷却グッズのほとんどは、この条件で効きが落ちます。

環境省の熱中症予防情報で使われている暑さ指数(WBGT)は、気温だけでなく湿度と輻射熱を合わせて評価します。同じ33度でも、湿度が高いほど危険度は上がる。停電した部屋は、まさに湿度が上がっていく環境です。2時間で復旧したからよかったものの、これが半日続いていたらと思うと、ぞっとします。

電気を使わない冷却手段は、思っているより効かない

停電時の暑さ対策で思いつくのは、うちわ、濡れタオル、冷却シート、ネッククーラーあたり。うちも一通り試しました。どれも効かないわけではないが、エアコンの代わりにはまったくならないというのが正直なところです。

うちわと扇子は、汗が蒸発するのを助ける道具です。だから湿度が高いと効きが落ちる。湿度74%の部屋で扇いでいると、涼しいというより「生ぬるい風が当たっている」という感覚でした。無風よりマシではあります。ただ、扇ぎ続けるのは自分が動くことなので体温も上がる。息子を扇ぐのを妻と交代でやっていましたが、20分で汗だくです。

濡れタオルを首に巻くのは、気化熱を使う方法です。これも同じ理屈で、湿度が高いと蒸発しないぶん効きが鈍い。加えて、断水を伴う停電だと「貴重な水をタオルに使う」という判断が必要になります。ここは後で書きます。

PCM素材のネックリングは、28度前後で凍る素材を使い、冷蔵庫や冷水で再凍結できるのが売りです。ただし、周囲の温度が凝固点を超えていると再凍結しません。停電で冷蔵庫が止まれば水道水で冷やすしかありませんが、真夏の水道水は25度を超えることもある。うちの28度タイプは、その日ぬるい水では固まりませんでした。1本使い切ったら終わりです。

叩いて冷やす瞬間冷却パックは、電気も水も要らない点で停電と相性がいい。ただし使い捨てで、持続は1個15分から20分程度です。うちは12個入りを1箱備蓄していますが、3人で使えば1時間ももちません。

冷感ポンチョを買って分かった、水を使う矛盾

そこで買い足したのが、水で濡らして使う冷感ポンチョです。肩から首まわりを覆う大判のクールタオルを、頭からかぶって使うもの。うちのは肌温度マイナス15度をうたうタイプで、2,000円台でした。

普通の冷感タオルとの違いは面積です。首だけを冷やすリングと比べ、首の後ろから肩、背中の上部までが一度に冷える。広い面で熱を逃がせるので、体感の下がり方が違いました。ベランダで洗濯物を干す10分でも、汗の量が変わります。

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ただ、不満は3つあります。

1つ目は水です。濡らして絞って振るので、当然ながら水を消費します。計ってみると1回で250mlから300mlほど。断水していれば、飲み水を削って使うことになります。備蓄の目安は一般的に1人1日3リットル、最低3日分・推奨1週間分とされていますが、そこからタオル用に何ml回すかを、暑さで頭が回らない状況で判断することになる。うちは風呂の残り湯を貯めておいて冷却用に回す運用に変えました。

2つ目は持続時間です。乾けば効果はゼロになります。33度の部屋だと、体感で効いているのは20分前後。15分から30分おきに濡らし直す必要があって、これが地味に面倒です。「かければ涼しくなり続けるグッズ」ではなく、「濡らす手間を繰り返す道具」だと思っておいたほうがいい。

3つ目は匂いです。湿ったまま畳んで放置したら、翌日には生乾きの匂いがしました。これは私の失敗で、使ったあとは必ず干す。備蓄箱に入れるのは乾いた状態のものだけ、というルールにしました。

あと、大人用のポンチョは赤ちゃんには大きすぎて使えません。息子には薄いガーゼタオルを濡らして首の後ろに当てる程度にしています。冷却シートを額に貼るのも、乳児は自分で剥がせず窒息のリスクを指摘されることがあるので、うちは使っていません。

水と塩をどれだけ備えるか

暑い日の備蓄で、水と同じくらい大事なのが塩分です。汗で失われるのは水だけではないので、真水ばかり飲むと血中のナトリウム濃度が下がって、かえって具合が悪くなることがあります。

うちが置いているのは、経口補水液のペットボトルが500ml×6本、パウダータイプが10包、塩タブレットが1袋。経口補水液はナトリウムとブドウ糖の比率を吸収しやすく調整した飲み物で、スポーツドリンクより塩分が多く糖分は控えめです。日常的にがぶ飲みするものではなく、具合が悪くなりかけた時のためのものだと理解しています。パウダーを混ぜたのは、嵩と期限の都合です。

失敗したのは、最初に塩タブレットだけを大量に買ったことです。あれは水と一緒に摂って初めて意味がある。単体で舐めても脱水は改善しません。しかも、うちの息子には塩タブレットは使えない。乳児の水分補給は基本的に母乳やミルク、あるいは乳児用のイオン飲料で、大人と同じものは与えられません。ここは分けて備える必要がありました。

生後6ヶ月の息子を、何で見て判断するか

赤ちゃんは体温調節が未熟です。汗腺の数は大人とほぼ同じなのに体表面積が小さく、自分で服を脱いだり水を飲みに行ったりもできない。しかも「暑い」と言えません。だから大人が観察するしかない。

うちが指標にしているのは、おしっこの回数と、背中の汗です。おむつの交換回数が普段より明らかに減っていたら、水分が足りていない可能性がある。生後5〜6ヶ月だと1日6回前後は替えている感覚なので、それが半分になったら要注意だと考えています。背中に手を入れて汗ばんでいるかどうかも、こまめに見ています。逆に、暑いのに汗が引いて肌が乾いているほうが危ない、というのは小児科で聞いた話です。

ぐったりして反応が鈍い、泣き声が弱い、唇や口の中が乾いている。このあたりが出たら備蓄でどうにかしようとせず、医療につなぐ。自己判断でがんばる場面ではないと決めています。

家で耐えることにこだわらない

あの2時間で一番の学びは、「家が暑いなら、家にいなくていい」ということでした。地震で家が壊れたわけでもない停電なら、外に出る選択肢があります。

近年、自治体が「クーリングシェルター」「涼み処」といった名前で、図書館や公共施設を暑さをしのぐ場所として開放する取り組みを進めています。うちの自治体も指定施設のリストを公開していて、そのページをスマホにブックマークしました。広域停電なら施設も止まりますが、変電所単位の停電なら隣の町は普通に涼しかったりします。

ベビーカーで行ける範囲に図書館が1つ、大型スーパーが1つ。この2つを「暑い日の避難先」として夫婦で共有しています。備蓄品ばかりに目が行きがちですが、移動という手段は買い物より安上がりで、効果はエアコン1台ぶんです。

車で凌ぐなら、条件を先に決めておく

うちは車を持っていて、「最悪、車のエアコンで凌ぐ」という案は当然出ました。実際それは有効な手段ですが、条件を先に決めておかないと危ないと思っています。

まず燃料です。エアコンをつけたアイドリングは、車種にもよりますが1時間あたり0.5リットルから1リットル程度は消費するとされています。半分の残量で丸一日粘るのは現実的ではない。うちは「タンクが半分を切ったら給油」をルールにしました。災害時はスタンドに列ができるので、平時の習慣で差がつきます。

次に一酸化炭素です。マフラーの排気口が塞がれた状態でエンジンをかけると、排ガスが車内に回り込む危険があります。夏なら雪はありませんが、水害後の土砂や瓦礫、あるいは壁に近づけすぎた駐車位置でも起こりえます。停める場所と排気口の向きは、乗る前に必ず確認する。

それと姿勢です。同じ姿勢で長時間座っていると、脚の静脈に血栓ができるエコノミークラス症候群のリスクがあります。1時間に1回は外に出て脚を伸ばす。暑さから逃げるために車に入って別の問題を抱えるのは避けたいので、うちは「車は日中の数時間だけ、寝るのは車内でやらない」と決めました。

最後に

夏の停電が怖いのは、じわじわ効いてくるところです。一瞬で何かが壊れるわけではなく、室温が1時間に1.5度ずつ上がって、気づいたときには判断力が落ちている。あの日、33.8度の部屋で私は「まあ大丈夫だろう」と思っていましたが、それ自体が鈍っていた証拠だったのかもしれません。

冷感ポンチョも経口補水液も、それだけで夏を乗り切れる道具ではありません。効くのは30分単位で、その間に次の手を打つ時間を稼ぐものです。稼いだ時間で涼しい場所へ移動するのか、子どもの様子を見て医療につなぐのか。そこまで含めて考えておくと、備えている物の意味が少し変わって見えます。

この記事は防災グッズの個別レビューです。在宅避難という選択肢と備え全体は在宅避難という選択肢|避難所に行かない備えのつくり方にまとめています。

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