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「ちょっと声が反響してますね」。クライアントとの定例で、そう言われました。マイクを買い替えた直後だったので、機材の問題ではないはずでした。原因は部屋のほうです。6畳の洋室に机と椅子とカラーボックスだけ。壁は白いクロスの石膏ボードで、床はフローリング。音が跳ね返る条件が全部そろっていたんですよね。ここでは壁に吸音パネルを貼って、自分の声の聞こえ方がどう変わったかを書きます。壁の防音ではなく、あくまで自分の声の話です。
マイクを替えても反響は消えなかった
最初に疑ったのはマイクでした。それまで使っていたのがヘッドセットで、そこからスタンド型のマイクに替えたタイミングだったので、指向性の設定を間違えたのかと思ったんです。単一指向にして、口からの距離を20cmまで詰めて、ゲインも下げました。それでも「風呂場みたいに聞こえる」という指摘は変わりませんでした。
会議ツール側のノイズ抑制も一通り試しました。Google Meetもzoomも、背景ノイズを消す機能はかなり優秀です。エアコンの送風音やキーボードの打鍵は本当に消えます。ただ反響は消えませんでした。これは仕組みを考えれば当たり前で、反響音は自分の声そのものだからです。ノイズではないので、ノイズとして削れない。
自分でも確認したくて、iPhoneのボイスメモで30秒だけ喋って再生してみました。ヘッドホンで聞くと、語尾が二重になって聞こえます。「おはようございます」の「す」が、わずかに遅れてもう一度鳴っている感じ。指摘は正しかったです。
ついでに手を1回叩いて録音し、波形を見てみました。パンという音が鳴り終わったあと、小さな山がしばらく続いています。音が止まってから静かになるまでに、うちの部屋は0.5秒くらいかかっていました。会議室として作られた部屋なら0.3秒を下回るくらいが目安と言われるので、明らかに長すぎます。自分の声が部屋の中でしばらく生き残っている、という状態でした。
この時点で分かったのは、機材にいくら足しても意味がないということです。マイクは目の前で鳴っている音を素直に拾っているだけで、そこに反射音が混ざっているのは部屋の責任。ここから対策の方向を機材から部屋に切り替えました。
声が壁で跳ね返って、マイクに二度入っている
音は秒速340メートルくらいで進みます。私の座っている位置から右の壁までが約1.4メートルなので、壁で跳ね返って戻ってくる音は直接音より2.8メートル余計に旅をすることになります。時間にすると8ミリ秒ちょっと。この程度のずれだと、人間は別の音として認識せず「響いている」と感じます。
厄介なのは、これが一回で終わらないことです。右の壁で跳ねた音は左の壁にも行き、天井と床の間でも往復します。何もない6畳の部屋は、要するに音が減衰しないまま何度も往復する箱でした。カーペットを敷いていなかったので、床と天井の往復がとくに元気だったんだと思います。
貼る場所は鏡で探した
吸音材は、壁一面に貼らないと意味がないと思っていました。実際は違って、跳ね返りの中でも早く戻ってくる分、つまり最初の反射だけを潰せば体感はかなり変わります。問題はその場所がどこか、です。
使ったのは手鏡です。妻に持ってもらって、いつも座っている姿勢のまま壁沿いに鏡を動かしてもらいました。鏡の中に自分の口が映る位置、そこが最初の反射点になります。うちの場合、右の壁の床から110〜150cmあたりと、正面の壁の一部、それから机の真上の天井でした。天井はさすがに貼れなかったので、壁の2ヶ所に絞りました。
この作業に15分ほどかかりましたが、やる価値はありました。最初は「とりあえず机の背面に貼ればいいだろう」と思っていて、そこはまったく反射点ではなかったんです。
密度200kg/m³のボードを8枚から
選んだのは自己粘着タイプの吸音ボードです。決め手は密度で、200kg/m³と表記されているもの。ホームセンターで見かけるスポンジ状の吸音材は密度が低くて、高い音は減るけれど人の声の帯域には正直あまり効きませんでした。前に980円のスポンジを試して、ほぼ変化がなくて捨てています。あれは無駄な買い物でした。
厚みがあるぶん重さもあって、届いた箱を持ったとき「思ったより重い」と感じました。押しピンが同梱されていたのが、賃貸で使う身としてはありがたかったところです。
最初に8枚だけ買って、右の壁の反射点に貼りました。1枚あたりのカバー面積はそれほど広くないので、8枚だと畳半分くらいの面積です。それでも録音を聞き比べると、語尾の二重感が明らかに減っていました。追加で8枚買って正面の壁にも貼り、合計16枚。ここで打ち止めにしました。
2ヶ月使って残っている不満
効果とは別に、いくつか引っかかる点があります。
ひとつは見た目です。壁の一部だけに濃い色のパネルが並ぶので、部屋の雰囲気は確実に事務所寄りになります。妻からは「ここだけスタジオみたい」と言われました。褒め言葉ではないと思います。カメラの画角に入る位置に貼るなら、色は部屋に合わせて選んだほうがいいです。
もうひとつは、低い音にはまったく効かないこと。隣室のテレビから来る低音や、上の階の足音は貼る前と何も変わりません。吸音材が担当しているのは中高音、つまり人の声の芯の部分だけです。ここを勘違いすると「効かない」という感想になります。私も最初、静かになることを少し期待していました。
開封直後のにおいも、無臭という表記ほどではありませんでした。ごく弱い接着剤系のにおいがして、丸一日窓を開けていたら気にならなくなった程度です。子どもが同じ部屋にいる時間帯は避けて、休日の朝に一気に貼りました。
あとは枚数の見積もりです。8枚で一度満足しかけたのが失敗で、結局もう8枚足しました。最初から必要枚数を計算しておけば送料が一度で済んだのに、と後から思っています。目安として、反射点になっている壁面の3割くらいを覆えると体感が変わる、というのが私の感触です。全面を埋める必要はまったくありません。
ちなみに私の場合、16枚で1万円弱でした。マイクを1万円台で買い替えたときの変化と比べると、こちらのほうが会議相手からの反応ははっきりしていました。順番を逆にすればよかったです。
賃貸で剥がせるか、が最後まで気になった
自己粘着といっても、クロスに直接貼るのは怖かったです。クロスは意外と簡単に持っていかれます。私は幅50mmのマスキングテープを下地に貼り、その上から両面テープで固定する方法にしました。パネルの四隅と中央、5点で留めています。天井近くの1枚だけは念のため付属の押しピンも併用しました。
2ヶ月経った時点で1枚だけ剥がして確認しましたが、マスキングごと素直に取れて、クロスに跡は残っていませんでした。ただしこれは私の家のクロスでそうだったというだけの話です。試すなら、家具の裏など目立たない場所で先に確認したほうがいい。築年数が経っていてクロスが脆くなっている部屋だと、同じ方法でも持っていかれる可能性はあります。
押しピンについても管理会社に電話で聞きました。返ってきたのは「画鋲程度の穴は通常損耗の範囲で見ています」という回答でしたが、これは物件と契約次第です。私は念のため、そのときのやり取りをメモに残しています。壁に手を入れる前に一本電話するだけなので、やっておいて損はないと思います。
もう一点、貼らないほうがいい場所もありました。エアコンの吹き出し口の真下です。風が常に当たるところは粘着が早く弱ります。最初に1枚そこへ貼って、3週間で端が浮いてきたので位置を変えました。
会議で反響を指摘されなくなったのは、貼った週からです。マイクを買い替えたときより、はっきり変化がありました。数万円かけて機材を上げる前に、まず壁を見たほうが早い場合がある。私にとってはそういう買い物でした。
この記事は在宅環境の個別レビューです。どこから手を付けるべきかはデスク以外の在宅環境|見落としがちな投資先で整理しています。

