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冬の停電は、夏の停電より怖い。私はそう考えるようになりました。
理由は単純で、暑さは我慢すれば数時間は耐えられますが、寒さは体温そのものを削っていくからです。深部体温が35度を下回ると低体温症とされ、判断力が落ち、動けなくなる。しかも本人は寒さに慣れたと錯覚することがあるらしい。気づいたときには自力で対処できなくなっているというのが、熱中症より厄介な点だと思っています。
うちは息子が生後6ヶ月。冬に停電したとき、この小さい体をどうやって温めるのかを真剣に考えたので、その検討過程を書きます。
停電すると、暖房はほぼ全滅する
最初に自分の家の暖房を棚卸ししたとき、けっこう愕然としました。
うちのリビングはエアコン。当然ながら電気が止まれば動きません。寝室には電気ファンヒーターを置いていて、これも同じ。問題はここからで、ガスファンヒーターや石油ファンヒーターも、送風ファンと点火に電気を使うので停電時は動かない機種がほとんどです。ガスが生きていても暖房にはならない。これを知らないと、いざというとき「ガスは通ってるのになぜ」と混乱します。
床暖房も同じ理屈で止まります。結局、電源なしで熱を出せる暖房器具を1つも持っていないことに気づきました。冬の停電に対しては丸腰です。
ではポータブル電源でエアコンを回せばいいかというと、これも現実的ではありません。エアコンの消費電力は起動時に大きく跳ね上がりますし、仮に動いたとしても数時間でバッテリーが尽きる。電気で部屋を暖めるという発想を、いったん捨てるところから組み直しました。
部屋を暖めるのをやめて、体を暖める
方針を変えた結果、考え方はこうなりました。空間の気温を上げるのは諦める。その代わり、体の表面と衣類のあいだにある空気の層を維持する。
重ね着は、順番に意味があります。肌に接する吸湿・速乾の層、その上に空気を溜める保温の層、一番外に風を通さない防風の層。この3層が基本形です。
ここでやりがちな失敗が、肌に綿のTシャツを着ることでした。私は最初これをやっていて、支援センターの防災講習で指摘されました。綿は汗を吸うと乾きにくく、濡れた布が肌に張り付いた状態が続く。濡れた衣類は体温をどんどん奪うので、寒い環境ではむしろ逆効果になります。化繊かウールの肌着に変えました。ヒートテック的な化繊インナーを、家族3人分ずつ防災用に取り分けてあります。
その上にフリース、一番外にウインドブレーカーやダウン。避難所のような場所では床からの冷えが大きいので、下に敷くものも要ります。アルミシートを重ねると輻射熱を反射して効果的とされていますが、これは別記事で書いたので深入りしません。ここでは「毛布1枚より、薄い層を何枚か重ねたほうが暖かい」という原則だけ押さえておけば十分です。
絶対にやってはいけない暖の取り方
ここは強く書きます。
カセットコンロ、炭、七輪、練炭を、部屋を暖める目的で使ってはいけません。
これらは燃焼で酸素を消費し、一酸化炭素を出します。一酸化炭素は無色無臭で、発生していることに気づけない。頭痛や吐き気が出た時点ですでに中毒が進んでいて、そのまま動けなくなるケースが報告されています。過去の災害でも、寒さをしのごうとしてこの事故が起きています。
カセットコンロは調理には必要な道具ですが、用途は調理に限定し、換気しながら短時間で使う。暖房の代わりにはしない。うちでは妻とこの点だけは明確に共有しました。冬に停電して寒いと、判断力が落ちた状態で「少しだけなら」と思ってしまう可能性がある。だから事前にルールとして決めておくことに意味があります。
同じ理由で、石油ストーブを密閉した部屋で長時間使うのも危険です。開放型の燃焼器具を使う場合は、定期的に窓を開けて換気する必要があります。寒いから閉め切りたいという気持ちと、真っ向から対立するのが厄介なところです。
使い捨てカイロを、家族3人分でどれだけ買ったか
電気もガスも使わずに熱を出せるものとして、結局カイロが一番現実的でした。単価が安く、保管も場所を取らず、使い方に事故のリスクがほぼない。
備蓄量は計算しました。大人1人が1日に使う枚数を、腰と背中で2枚、足元で1枚として3枚。これを大人2人分で1日6枚。息子には直接使わないので、そのぶんは計上しません。3日で18枚、1週間で42枚。想定を1週間に置いて、余裕を見て60枚を目安にしました。
買ったのは2種類です。1つはアイリスオーヤマの「激熱家族」30個入り。屋外専用タイプで、最高温度79度、9時間持続とされています。もう1つは貼るタイプのミニサイズ30枚入り、790円前後のもの。屋内で服の上から貼るのはこちらを使います。
実際に使ってみたのは、去年の年末に妻の実家へ帰省したときでした。駅から徒歩15分の道のりで、ダウンの下に貼るタイプを腰に1枚。到着まで背中がずっと温かくて、これは効くと実感しました。逆に、屋外専用の高温タイプを試しにポケットに入れて握っていたら、5分ほどで熱すぎて持っていられなくなった。用途が完全に別物です。
買う前に知っておくべき注意点
カイロにも短所と注意点があります。
まず屋外専用の高温タイプは、肌に直接当ててはいけません。最高79度という数字は、触れ続ければ確実に低温やけどを起こす温度です。低温やけどは44度前後でも数時間で起きるとされていて、寝ている間に貼ったまま寝返りで体の下敷きにする、というのが典型的な事故パターンです。私は必ず服の上から使い、寝る前には剥がすことにしています。
次に使用期限。未開封で製造から2〜3年程度が目安とされていますが、外袋が完全に密閉されていないと、内部の鉄粉が空気に触れて少しずつ酸化してしまいます。実際、うちは以前に買った箱を押し入れの奥に3年半置いていて、開けたら半分くらいが温かくならなかった。100枚単位でまとめ買いすると単価は下がりますが、使い切れなければ意味がありません。60枚を目安にして、毎年冬に古いものから普段使いで消費し、そのぶんを買い足す形に落ち着きました。
もう1つ、貼るタイプは衣類に貼り付ける粘着面が、化繊の薄手インナーだと剥がすときに生地を傷めることがあります。私はフリースの上に貼るようにしています。
赤ちゃんは「暖めすぎ」も問題になる
ここが一番慎重に調べた部分です。
乳児は体温調節の機能が大人ほど発達していないとされていて、寒さに弱い一方で、暑さで体温がこもるのも危険です。着せすぎによる体温上昇や汗による冷えは、どちらもリスクになる。寒いから厚着させればいい、という単純な話ではないのが難しいところでした。
うちで決めた運用は3つです。1つ、カイロは息子には一切使わない。自分で「熱い」と言えない相手に、局所的な熱源を当てるのは危険が大きすぎます。ベビーカーやチャイルドシートの中に忍ばせるのも避けています。
2つ、体温の確認は手足ではなく背中や首の後ろに手を入れて行う。赤ちゃんの手足は普段から冷たいことが多く、それだけでは判断できません。背中がじっとり汗ばんでいたら着せすぎ、ひんやりしていたら足りない。実際にやってみると、想像より着せすぎている日が多かったです。
3つ、大人が抱っこして自分の体温で温める。これが停電時に一番確実な熱源でした。私の体は電気もガスも使わずに熱を出し続けます。抱っこ紐の上からブランケットをかけて包む形にすると、息子の体温が安定していました。ただし顔まわりを覆わないよう、呼吸の確保だけは常に確認しています。
湯たんぽと、部屋を1つに絞るという判断
湯たんぽは優秀な道具です。お湯を入れれば朝まで温かく、電気を使わず、繰り返し使える。ただ、停電時にはそのお湯をどうやって沸かすのかという矛盾があります。
電気ケトルは当然使えません。ガスが生きていればコンロで沸かせますが、地震の場合はガスが自動停止していることが多い。結局、カセットコンロで沸かすことになります。ここで前述の話と繋がるわけですが、調理として湯を沸かすのは適切な使い方です。換気をしながら短時間で沸かして、火を消して、その熱を湯たんぽに移す。燃焼器具を点けっぱなしにしないという原則は守れます。カセットボンベ1本で沸かせる湯の量には限りがあるので、無制限にはできませんが。
もう1つ、家全体を暖めるのを諦めるなら、過ごす部屋を1つに絞るのが効きます。うちの場合はリビングではなく、6畳の寝室を選びました。狭いほうが人の体温だけでも室温が下がりにくいからです。使わない部屋のドアは全部閉める。
窓の対策も一緒にやります。熱の多くは窓から逃げるとされていて、厚手のカーテンを引くだけでも違いますし、段ボールを窓ガラスに立てかけるとさらに効果があります。うちは引っ越しのときの段ボールを2枚、押し入れに畳んで残してあります。ゼロ円でできる対策としては優秀です。床にはヨガマットと敷布団を重ねて、床からの冷えを断つ。
最後に
冬の停電対策として私が用意したものを金額で言うと、カイロ60枚で2,000円ほど、化繊インナー3人分で6,000円ほど。あとは今ある毛布と段ボールとカセットコンロの流用です。1万円かかっていません。
それでも、やる前とやった後で気持ちがかなり違います。以前は「冬に停電したらどうしよう」が漠然とした不安のままでしたが、今は「寝室に集まって、着込んで、カイロを貼って、抱っこで息子を温める」という具体的な段取りになった。不安が手順に変われば、その分だけ冷静に動けるはずです。
低体温症は静かに進行します。暖房が全滅する前提で、電気を使わない熱源を家族の人数ぶん持っておくこと。それが冬の備えの中心だと、今の私は考えています。
この記事は防災グッズの個別レビューです。在宅避難という選択肢と備え全体は在宅避難という選択肢|避難所に行かない備えのつくり方にまとめています。

