ノートとペン|画面の前で手書きに戻る理由

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画面の前に座っている時間が1日9時間くらいあります。それだけ画面を見ているのに、設計を考えるときだけは紙に戻ってしまう。最初は自分の効率が悪いだけだと思っていました。Figmaもあるし、Notionもあるし、iPadとApple Pencilも持っている。それでも新しい画面の構造を考えるときは、A5のノートを開いてシャーペンで四角を描いている。この3年でノートを7冊使い切って、ようやく理由が言語化できるようになってきました。

デジタルで考えようとして失敗した2年間

エンジニアになった年、私は「紙を使わない人」になろうとしていました。理由は単純で、そのほうが格好いいと思っていたからです。設計メモはNotionに書く。図はFigJamに描く。手書きが必要ならiPadで。実際、1年半くらいはそれで通していました。

破綻したのは、担当していたアプリの画面遷移が20画面を超えたあたりです。ログインからオンボーディング、メイン機能、設定まで、条件分岐を含めると紙1枚には収まらない規模になりました。FigJamで描き始めて、2時間かけて全体を並べて、そこで気づいたんです。私は考えていたのではなく、図を綺麗に並べていただけだったと。

矢印の角度を直している時間、ノードの色を揃えている時間。あとから振り返ると、その2時間で決まった仕様はほぼゼロでした。ツールが提供する編集機能が優秀すぎて、思考ではなく整形に手が動いてしまう。これは私の性格の問題かもしれません。でも同じことを言う同僚が2人いたので、たぶん珍しくない話です。

紙に戻したら、判断が早くなった

その翌週、同じ設計をノートでやり直しました。かかった時間は40分。しかも決まった仕様は前回より多い。何が違ったのか考えると、答えは「直せないこと」でした。

紙は消しゴムを使わないかぎり直せません。だから最初の一筆を置く前に、頭の中で一度組み立てる。書き始めたら、多少ずれていてもそのまま進む。ずれた部分は横に矢印を引いて補足する。汚くていい、という前提が最初からあるので、手が止まらないんですよね。

もうひとつ大きいのは、ページの端があることです。A5の見開きに収まらない設計は、たぶん責務が多すぎる。物理的な制約が、設計の粒度を勝手に決めてくれる感覚があります。デジタルのキャンバスは無限に広がるので、この歯止めがない。

方眼が向いている理由は「図と文字が混ざるから」

罫線ノートと方眼ノートを両方1冊ずつ使い切って、方眼に落ち着きました。理由は3つあって、そのどれもが設計特有のものです。

ひとつめは、UIのワイヤーが描けること。スマホの画面比率をだいたい9:16として、5mm方眼なら横9マス×縦16マスで45mm×80mmの箱が引ける。定規なしで、まっすぐに。この「定規なしでまっすぐ」がかなり効きます。iPhoneの画面を1ページに4つ並べて、遷移の矢印を引く。これがA5見開きに8画面ぶん入ります。

ふたつめは、文字と図が同じ面に共存できること。ワイヤーの横に「ここはStateNotifierで持つ」と書く。矢印の上に「Navigator.push」と書く。罫線だと図を描くときに線が邪魔で、無地だと文字が波打つ。方眼はその中間で、どちらも許してくれる。

みっつめは、表が描けること。APIのレスポンスをどうモデルに落とすか考えるとき、私はよく2列の対応表を書きます。方眼だと縦線を引くのがラクなんです。

使っているのはコクヨの「大人キャンパス」の方眼罫、A5・80枚が5冊入ったパックです。中身は普通のキャンパスノートの方眼版で、表紙が濃いグレーになっているだけ。80枚あるので1冊がだいぶ長持ちします。

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不満もあります。まず表紙が薄いこと。膝の上で書くと下敷きが欲しくなります。あと5冊パックなので、方眼が合わなかったときの損失が大きい。私は最初にB5の罫線を5冊買って、3冊目で「これは違う」と気づいた前科があります。試すなら単品を1冊買ってからにしたほうがいい。あと裏抜けは、水性ボールペンだと薄っすら出ます。私は0.5mmのシャーペン中心なので実害はないんですが、万年筆を使う人は合わないと思います。

デジタルに移せなかったのは「途中の状態」だった

紙に書いたものを全部デジタルに転記しているかというと、していません。転記するのは決まったことだけです。最終的な画面遷移図はFigJamに起こすし、決定した仕様はNotionに書く。でも、その途中にあった「AとBで迷って、Bにした理由」みたいなものは、ノートにしか残っていません。

最初はこれを問題だと思っていました。チームで共有できない知識がノートに閉じ込められている、と。でも今は、そこまで気にしていません。迷いの過程は、書いた本人が2週間後に見返すためのものであって、他人が読んで役に立つ形にするにはもう一段の編集が必要です。その編集コストを払う価値があるものだけ、Notionに書けばいい。

実際、去年の11月に「なぜこの画面だけキャッシュを持たない設計にしたのか」を聞かれて、ノートの該当ページを探し当てたことがあります。日付とスプリント番号をページの右上に書く癖をつけていたので、3分で見つかりました。この検索性は、正直Notionのほうが上です。でもノートは7冊しかないので、総当たりでも意外となんとかなる。

ペンは3年で1本に絞った

ノートより先に迷走したのがペンでした。設計を考える用に万年筆を買い、フリクションを買い、多色ボールペンを買い、結局いま使っているのは0.5mmのシャーペン1本です。合計で1万2千円くらい使いました。

シャーペンに戻った理由は、消せるからではなくて線の太さが安定するからです。ワイヤーを描くとき、線の太さがバラつくと図の意味が変わって見える。ボールペンは書き出しでインクが溜まったり掠れたりして、そこが気になる。

色は使っていません。多色ボールペンを買ったときは「重要な部分を赤で」と思っていたんですが、書きながら色を選ぶ動作が入るだけで思考が途切れました。あとから見返して重要な箇所を囲むほうが速い。色は、あとで整理するときだけ使うものだと思っています。

子どもが生まれてから、置き場所が変わった

生後6ヶ月の子がいると、デスクの上に紙を出しっぱなしにできません。リビングにあるものは高確率で口に入るので、ノートはデスクの引き出しに入れて閉じる。この「毎回しまう」動作があるせいで、以前より開く回数は減りました。

代わりに、開いたら15分は書く、という単位になりました。前は5分ごとにちょこちょこ書いていたのが、まとめて書くスタイルに変わった。これが良い変化なのかは分かりません。ただ、ノートの消費ペースは月に半冊くらいで、育児前とほぼ同じです。書く総量は変わっていない。

紙が最強だとは思っていません。共有はデジタルのほうが圧倒的にラクだし、検索性も比較にならない。ただ、誰にも見せない状態で頭を動かす作業に関しては、いまだにA5の方眼が一番速い。そこだけは3年やって変わらなかった、という話です。

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