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子どもが生まれてしばらく、風呂に入れない日が続いた時期がありました。災害でも何でもなく、ただ単に手が回らなかっただけです。夜中に何度も起きて、朝から在宅で仕事をして、気づけば3日ほど頭を洗っていない。
そのとき自分でも意外だったのが、髪が脂っぽいというだけで、判断力が落ちた感覚があったことです。仕事のコードレビューで細かいところが気にならなくなるし、妻との会話も雑になる。清潔さは気分の問題だと思っていたんですが、思っていたより気力に直結しているらしい。
災害時は、これが数日どころではなく続く可能性があります。停電と断水が重なれば、給湯器は動かないし、水も出ない。そこでドライシャンプーを買って、実際に3日間使ってみました。結論から言うと、限界ははっきりありました。それでも備えておくべきものだと思っています。
髪が洗えない3日目に、気力が落ちた
災害の備えを考えるとき、私はずっと「生存に必要なもの」から積み上げていました。水、食料、トイレ、明かり、情報。これは順番として正しいと思います。命が先です。
ただ、在宅避難が数日から1週間続く前提で考えると、生存の話だけでは足りないんですよね。避難生活で問題になるのは、物資の不足そのものより、そこから来る心身の疲弊だという指摘をよく見ます。眠れない、落ち着かない、判断が雑になる。
自分の3日間を振り返ると、髪の不快感は確実にその一因でした。頭皮がかゆい、前髪が額に張り付く、何となく自分が不潔だと感じる。この状態で子どもの世話をして、避難するかどうかの判断をして、家族と話し合いをする。コンディションが悪い状態で重要な判断をすることになるのが怖いと思いました。
だから衛生用品は「あったら快適なもの」ではなく、判断力を維持するための道具として位置づけ直しました。優先度は水や食料の次ですが、切り捨てる項目ではない。
スプレー式、パウダー式、シート式。仕組みと使い勝手が違う
ドライシャンプーと一口に言っても、形状で使い方がかなり違います。買う前に整理しておいたほうがいい部分です。
スプレー式は、頭皮に吹きかけてタオルで拭き取るタイプ。液体をエアゾールで噴射するものと、粉末が出るものがあります。頭全体に一気にかけられるので、髪が長い人でも短時間で済む。ただしエアゾール缶は温度管理が要ります。高温になる車内や、直射日光の当たる場所での保管は避ける必要があるので、車載の防災バッグには向きません。
パウダー式は、粉を根元に振りかけて皮脂を吸わせ、ブラシで払い落とすタイプ。水分をまったく使わないので、拭き取るタオルがなくても成立します。ただし黒髪だと白い粉が残ることがあって、拭き取りが甘いと目立ちます。
シート式は、シートで頭皮と髪を直接拭くタイプ。1枚ずつ個包装のものもあって、リュックに入れやすい。ただし髪が長いと枚数を使いますし、頭皮の脂をこそぎ落とす力はスプレーより弱く感じました。
あとはジェルタイプもあります。手に取って頭皮になじませてからタオルで拭き取る形で、飛び散らないのが利点。密閉されたクルマの中や、周りに人がいる避難所ではスプレーより気を使わずに使えます。
スプレータイプを買って、3日間試した
我が家が最初に買ったのは、資生堂のフレッシィという150mlのスプレータイプです。ドラッグストアでも見かける定番で、1本1,000円前後。もともと介護や入院時の使用を想定した製品らしく、そのぶん過剰な香りがないのが良さそうだと思って選びました。
使い方は単純で、髪をかき分けて頭皮に直接吹きかけ、指の腹でなじませて、乾いたタオルで拭き取る。私は短髪なので1回に10プッシュくらい、所要時間は3分ほどでした。150mlで15〜20回分といったところです。3人家族が3日間、1日1回使うと9回。1本で足ります。
1日目は正直、感動しました。頭皮のべたつきが消えて、髪が根元から立つ。アルコールの揮発で少しひんやりして、その感覚が「洗った」という実感に近い。これで水がゼロというのは、よくできているなと思いました。
不満もあります。拭き取りに使うタオルが1回で1枚ダメになること。断水中はタオルを洗えないので、実質使い捨てです。ペーパータオルで代用しましたが、これも消耗品として計算に入れておく必要がある。あと、エアゾールの音が思ったより大きいので、子どもが寝ている部屋では使えませんでした。深夜に使いたい場面を考えると、ジェルやシートを併用したほうがいいと思っています。
さっぱり感は本物に及ばない。限界を先に知っておく
3日続けて分かったのは、2日目までは十分、3日目からは厳しいということでした。
1日目と2日目は、ドライシャンプーだけで日中を問題なく過ごせます。ところが3日目になると、皮脂を吸着させて拭き取るだけでは追いつかなくなる。根元の重さが取れなくなって、朝に使っても夕方には元に戻る感覚がありました。ドライシャンプーは汚れを洗い流しているわけではなく、皮脂を吸わせて表面から取り除いているだけなので、蓄積には勝てないんだと思います。
もう一つ、匂いの問題があります。製品自体は無香料に近いものを選んだんですが、頭皮の匂いは日を追って戻ってきます。自分では慣れて分からなくなるのが厄介で、妻に確認したら「3日目は分かる」と言われました。
だから期待値としては、お湯が使えるようになるまでの数日をしのぐ道具と考えるのが妥当です。1週間これで乗り切る想定は無理があります。カセットコンロで湯を沸かして、洗面器1杯のお湯で髪を流す方法も併せて考えておいたほうがいい。1.5Lくらいあれば、短髪ならすすげます。
もう一点、頭皮が敏感な人は事前に試しておくべきです。アルコールを含む製品が多く、乾燥やかゆみが出ることがあります。私は問題なかったんですが、妻は少しかゆみが出ました。本番で初めて使って肌に合わなかった、が一番まずい。買ったらその週末に一度使ってみることをおすすめします。
「女性のほうが切実」とは書かないでおく
この手の記事を読んでいると、「特に女性にとっては切実です」という一文がよく出てきます。書きやすい表現なのは分かるんですが、私は書かないことにしました。
理由は単純で、私自身が3日で参ったからです。髪の長さや量で必要な回数は変わりますが、不快さの度合いを性別で線引きできる根拠を、私は持っていません。実際に困ったのは30代の男性である自分でした。それを「女性のほうが」と一般化して書くのは、自分の体験を捨てて型にはめる行為だと思います。
備えの量を決めるときも、性別ではなく髪の長さと本人の感覚で見積もったほうが正確です。うちの場合、私は短髪で1回10プッシュ、妻は肩下まであるので1回20プッシュ以上。この差のほうがよほど実務的でした。妻の分は別に1本用意しています。
入院と出張で回せば、期限切れで捨てずに済む
防災用品でいつも悩むのが、使わないまま古くなることです。ドライシャンプーには明確な使用期限の表示がないことも多いですが、化粧品全般と同じく、開封後は数ヶ月から1年程度で使い切るのが望ましいとされています。未開封でも3年程度を目安にしている製品が多い。
その点、ドライシャンプーは普段の生活で使い道があるのが強みです。もともと介護や入院時に使われてきた製品で、実際、妻が出産で入院したときに1本持たせました。シャワーを浴びられない日があったので役に立っています。
ほかにも、出張や旅行、夜行バス、キャンプ、災害以外の停電。フェスや登山でも使えます。うちは防災ストックに2本、洗面所の普段使いに1本を置いて、洗面所のが空になったらストックから1本降ろして、新しいのを買い足す形にしました。いわゆるローリングストックですが、食料と違って「消費しないと減らない」ものなので、意識して普段使いに回す必要があります。
ちなみに私の失敗は、最初にシート式の20枚入りを買って、そのまま1年放置したことです。開封していなかったので使えましたが、防災ボックスの奥に埋まっていて存在自体を忘れていました。今は洗面所の見える位置に1つ出しています。
最後に
ドライシャンプーは、備えのリストの中では優先度が高いものではありません。水と食料とトイレが先です。それは間違いない。
ただ、それらが揃ったあとに何を足すかと聞かれたら、私はこれを挙げます。1本1,000円ちょっとで、置き場所も缶1本ぶん。それで数日間の気力が変わるなら、費用対効果としては悪くない。
買ったら、次の週末に一度使ってみてください。肌に合うかどうかと、自分の髪で何プッシュ要るかが分かります。その2つが分かっていれば、本番で迷う時間がなくなります。
この記事は防災グッズの個別レビューです。在宅避難という選択肢と備え全体は在宅避難という選択肢|避難所に行かない備えのつくり方にまとめています。

