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去年の秋、住んでいるマンションで30分ほどの停電がありました。原因は結局、うちの部屋のブレーカーが落ちただけ。エアコンと電子レンジと電気ケトルを同時に動かした妻と私の合作です。災害でもなんでもない。
それでも、真っ暗な廊下を懐中電灯で照らしながら分電盤の前まで行って、私はそこで固まりました。分電盤は玄関の上、頭より高い位置にあります。蓋を開けて、落ちているブレーカーを探して、上げる。両手が要ります。左手には懐中電灯。仕方がないので、私はライトを口にくわえました。あごが震えて光が揺れる。10秒くらいで奥歯が痛くなる。あの30分で学んだのは、防災グッズとしてのライトに求められるのは明るさじゃなくて「手を空けられるかどうか」だ、ということでした。
赤ちゃんを抱いていると、手は一本も残らない
両手が空く、という言い方には少しごまかしがあります。うちの場合、そもそも片手も空いていないからです。
子どもは今、生後6ヶ月。夜中に停電が起きたとして、まず私か妻のどちらかが子どもを抱き上げます。この時点で、抱いているほうの手は二本とも埋まる。抱っこ紐を使えば片手は空きますが、暗い部屋で抱っこ紐を装着する作業そのものにまた両手が必要です。残ったもう一人が懐中電灯を持てばいいじゃないか、と思うかもしれません。実際そうします。でも、その一人はライト係に固定されるということです。荷物を出せない。玄関を開けられない。スマホで情報も見られない。
大人二人で赤ちゃん一人。人手には余裕があるほうだと思っていました。それでも、ライトを手で持つという前提を置いた瞬間に、動ける人間が実質一人に減る。これは想像していたよりずっと大きな差でした。
停電のつもりで、夜の家を一周してみた
買う前に、一度やってみたことがあります。子どもを寝かしつけたあと、リビングとキッチンの照明を全部落として、家の中を歩いてみました。実際に停電したときに自分が何をするのかを、順番になぞってみたかったんです。
まず玄関の分電盤。ここは前述のとおり両手作業。次に玄関の靴。うちは非常持ち出し袋を玄関収納の下段に入れているので、しゃがんで扉を開けて引っ張り出します。袋を持つと片手は消えます。それからマンションの共用階段。うちは7階なので、エレベーターが止まれば階段です。手すりを持ちながら、抱っこ紐で子どもを抱えて、荷物も持つ。ライトを持つ手はもうありません。
もうひとつ気づいたのは、床を照らしたいのか前を照らしたいのかが場面で変わることでした。階段では足元、廊下では数メートル先、収納の中では手元。手で持っていれば向きは自由に変えられますが、そのぶん常に片手が拘束される。頭に着けるライトは向きが顔の向きに固定されますが、見たいところを見れば勝手にそこが照らされます。この「視線と光が一致する」感覚は、実際に着けてみるまで軽く見ていました。
1,000円の電池式を先に買って、失敗した
正直に書くと、最初の1個は選び方を間違えています。ホームセンターで単4電池3本のヘッドライトを900円くらいで買いました。安いし、電池式なら充電切れの心配がないと思ったんです。
置き場所に困りました。電池を入れっぱなしにすると液漏れが怖いので抜いて保管する。すると停電の暗闇の中で、電池を探して、小さな電池ボックスの蓋を開けて、向きを合わせて入れる作業から始まることになる。口に懐中電灯をくわえたあの夜と、大差ない状況です。
買い直したのが、今使っているUSB-C充電式のLEDヘッドライトです。楽天で2,880円。明るさは300ルーメンほど、スポットとワイドの切り替えができて、実用点灯は明るさによって4〜15時間ほど。IPX4の防水なので雨の中でも一応使えます。センサー点灯と赤色サブライトが付いているのが、電池式のものとの一番の違いでした。充電式は「充電を忘れたら終わり」という弱点がありますが、うちはモバイルバッテリーを2台備蓄していて、そこから充電できるケーブルが共通なのでUSB-Cを選びました。乾電池とUSB-C、どちらを備蓄の軸にするかを先に決めたほうがいいと思います。
センサー点灯は便利。ただし誤作動する
センサー点灯は、ライトの下あたりに手をかざすと点いたり消えたりする機能です。手袋をしていてもスイッチを押さずに操作できるので、思想としては正しい。実際、抱っこ紐で子どもを抱えたまま、手の甲をさっと振って消せたときは感心しました。
ただ、誤作動します。私の場合、髪をかき上げた瞬間に消えました。子どもを抱き直そうとして腕が顔の前を通ったときも消えた。作業中に手元で物を動かしているだけで反応することもあります。センサーはオフにもできるので、うちは普段オフにしておいて、必要なときだけ入れる運用に落ち着きました。
それより気になっているのは、避難所での使い方です。頭に着けた光は、顔を向けた方向をそのまま照らします。人が寝ている体育館で振り返れば、その人の顔に300ルーメンが直撃する。自分では気づきにくいというのが厄介で、これは手持ちの懐中電灯にはない加害性だと思っています。
赤色灯モードの意味が、暗くしてから分かった
買ったときは、赤いライトなんて何に使うんだろうと思っていました。おまけ機能だと。
実際に暗い部屋で使ってみて、意味が分かりました。人の目は暗い場所にしばらくいると少しずつ見えるようになります。暗順応というやつです。ここで白色の強い光を浴びると、その状態が一瞬でリセットされる。ライトを消した直後、さっきまで見えていた家具の輪郭が何も見えなくなります。赤い光はこの暗順応を壊しにくいとされていて、実際、赤色モードで数分過ごしてから消しても、目の慣れがほとんど落ちませんでした。
もうひとつは、相手を眩ませないこと。赤色灯なら、正面を向いてしまっても相手が顔をしかめるほどにはなりません。夜中に子どものおむつを替えるとき、白色だと子どもが完全に目を覚まします。赤色だとそのまま寝ていることが多い。防災用に買ったものを、いま一番使っているのは平時の夜中の授乳時間です。
髪は乱れるし、30分で額が痛くなる
短所も書いておきます。まず、当たり前ですが髪が乱れます。私は在宅勤務なので気にしませんが、外に出る前に着けたり外したりするなら地味に面倒です。バンドの跡もつきます。
それから、長時間の装着は思ったよりつらい。バンドをしっかり締めないと下を向いたときにずれるので、つい締めます。すると30分から1時間くらいで額が痛くなってくる。本体の重さ自体は100g前後で軽いのですが、前側に重心があるぶん、ずり落ちないよう締め上げる圧力が額に集中します。実際の災害で何時間も着け続ける場面を考えると、ここは無視できない不満です。頭頂部を通るバンドが付いているモデルなら分散できるので、次に買うならそこを見ます。
あとは、屋外の暗い場所で家族と話すとき。相手の顔を見て話すと、そのまま相手の目を照らすことになります。会話中は少し下を向くか、赤色に切り替えるか。使い方の慣れが要る道具だな、というのが半年使った感想です。
子ども用に小さいのを買うべきか、まだ決めていない
いま迷っているのが、子ども用のヘッドライトです。子ども向けの小型モデルは1,000円台からありますし、自分の足元を自分で照らせるなら、抱かれていないときの安全は上がります。
一方で、うちの子はまだ6ヶ月です。頭に何かを着ければ確実に外そうとするし、外れたバンドが首に回る可能性を考えると、今すぐ持たせるものではない。歩けるようになって、言われたことを理解できる年齢になってからだろうと思っています。それまでは、大人が二人とも両手を空けられる状態を作るほうが優先度が高い。だから2個目は、子ども用ではなく妻用の同じモデルを買いました。
ヘッドライトは、備えておくと安心というより、備えていないと何もできない類の道具だと思っています。ライトを一本持っているかどうかではなく、そのライトを持つために手が一本潰れるかどうか。あの停電の夜に口にくわえた懐中電灯の味は、たぶんしばらく忘れません。
この記事は防災グッズの個別レビューです。3人家族で実際に揃えたもの全体と買う優先順位は防災グッズ 本当に必要なものリスト|3人家族で実際に揃えた全部にまとめています。

