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防災グッズにいくら使ったか、一度スプレッドシートにまとめたことがあります。水と食料で1万8千円、簡易トイレが4千円、ポータブル電源に至っては3万円超。細かいものを足すと6万円近くになっていました。
その表を眺めていて、一番下に並んだ千円の行が妙に気になったんですよね。防災ホイッスルです。金額で言えば全体の2%にも届かない。でも、もし本当に生死を分ける瞬間が来るとしたら、その場で一番効くのはこれなんじゃないか、と思いました。ポータブル電源は生き埋めになった自分を助けてくれません。
声は、思っているより早く出なくなる
倒れた家具や瓦礫の下敷きになったとき、まず考えるのは「助けを呼ぶ」ことだと思います。私も漠然とそう思っていました。大声を出せばいい、と。
ただ、これを一度シミュレーションしてみると、かなり無理があることが分かります。試しに自宅で、全力の声で「助けて」と叫び続けてみたことがあります。マンションなので声は出さずに口の形だけ、というのは意味がないので、休日の昼間に窓を閉めて2分だけやりました。結果、1分半でもう声がかすれ始めた。息が上がって、喉の奥がひりつく。これで本当に胸が圧迫されていたら、体力の消耗はこんなものでは済まないはずです。
しかも被災直後は空気中に粉塵が舞います。壁材や断熱材が砕けた粉を吸い込んだ状態で叫び続けるのは、想像しただけできつい。地震のあとの救助は数時間から数日単位になることもあると言われていて、その間ずっと声を出し続けるのは現実的じゃないんですよね。
ホイッスルはここが決定的に違います。少ない息で鳴る。一般的な会話の音量が60デシベル前後とされているのに対して、防災用のホイッスルは製品表記で100〜120デシベルあたりを謳っているものが多い。息の量あたりの音の大きさが、声とは比較になりません。横になったまま、浅い呼吸のままでも鳴らせる。この物理的な差だけで、助けが届く確率は変わると思っています。
玄関で吹いて、家のどこまで届くか試した
スペック表だけ見て納得するのが嫌だったので、届いた日に家の中で実験しました。うちは2LDKで、玄関から一番遠い寝室までは直線で12メートルくらい。間にドアが2枚あります。
妻に寝室のドアを閉めて待ってもらい、私が玄関で1回だけ吹きました。結論から書くと、寝室で普通にテレビをつけていても余裕で聞こえたそうです。というより「うるさい」と怒られました。想像していた「かろうじて聞こえる」レベルではなく、明確に不快なくらい鳴る。これは正しい反応で、遠慮して吹く道具ではないんだと分かりました。
ここで失敗もしています。時間帯を考えずに夜の20時過ぎにやったせいで、隣の部屋で寝かしつけたばかりの子どもが起きて泣きました。マンションで試すなら、日中に、1回だけ。何回も吹く必要はありません。1回で分かります。
ベランダから外に向けても吹いてみたかったんですが、さすがに近所に通報されかねないのでやめました。ただ屋外だと減衰するぶん、室内の実験ほどの安心感はないはずです。逆に言えば、瓦礫の中で聞こえる相手は数十メートル圏内の人。そこに向けて鳴らす道具だと割り切っています。
1個200円。5個セットを選んだ理由
私が買ったのは、防災士監修のホイッスルとストラップが5個入って1,000円ちょうどのセットです。1個あたり200円。防災読本という小冊子が付いてきます。
単品で買えばもう少し質のいいものはあります。アルミ製で見た目がスタイリッシュなモデルも検討しました。ただ、ホイッスルは1個持っていても意味がない、というのが実験して分かったことでした。必要なのは「自分がいる場所すべてに1個ずつある」状態で、それには数が要る。5個入りという構成は、そこにきれいにはまりました。
不満もあります。付属のストラップが、正直かなり細くて頼りない。首から下げて生活するには心もとないし、実際うちでは1本、鍵につけて数週間で毛羽立ってきました。ストラップは消耗品と考えて、気に入らなければ手持ちのカラビナや靴紐に付け替えたほうがいいです。あと色は選べないので、家族で色分けしたい人には向きません。本体そのものは軽くて薄く、ポケットに入れても存在を忘れる程度なので、そこは合格でした。
玉入りを買って、一度失敗している
実はこのセットを買う前に、100円ショップでホイッスルを買っています。スポーツの審判が使うような、中にコルクの玉が入っているタイプ。安いし鳴るし、これでいいと思っていました。
玉入りタイプは、内部のコルクや樹脂の玉が転がることで音を震わせる仕組みです。つまり玉が動かなくなると鳴らない。水に濡れると玉が膨らんだり張り付いたりして音が変わりますし、長く置けば内部に埃が溜まります。試しに水道の水を少し流し込んで吹いてみたら、間の抜けた音しか出ませんでした。乾かせば戻りますが、乾かす余裕がある状況なら、そもそも困っていない。
災害時は雨が降っているかもしれないし、消火の放水を浴びるかもしれない。何年も引き出しに放置される可能性のほうが高い。それを考えると、玉が入っていない構造のもの一択でした。玉なしは空気の流れだけで音を作るので、濡れても埃をかぶっても鳴ります。100均のものは今、子どもが大きくなったとき用のおもちゃ箱行き候補です。
防災リュックに入れた時点で、たぶん意味がない
最初、私はホイッスルを防災リュックの外ポケットに入れていました。防災グッズなんだからリュックに入れる。何も疑っていませんでした。
でもホイッスルが必要になる場面を具体的に想像すると、これが完全に間違いだと気づきます。ホイッスルを吹くのは動けないときです。倒れた本棚の下、崩れた壁の向こう、閉じ込められたトイレの中。そういう状況で、玄関に置いてあるリュックまで取りに行けるなら、そのまま外に出られます。リュックの中身は「避難したあとの生活」のための道具で、ホイッスルは「避難する前」の道具なんですよね。カテゴリが違う。
そこで5個を家族3人の生活動線に沿って配置し直しました。
- 私の家の鍵に1個。外出中に被災してもポケットにある
- 妻の通勤バッグのファスナー内側に1個
- 寝室の枕元、スマホの充電ケーブルの横に1個
- ベビーベッドの柵の外側、子どもの手が絶対に届かない高さに1個
- 残り1個は防災リュックに予備として
一番迷ったのが赤ちゃんの分です。生後6ヶ月の子どもは自分で吹けません。だからこれは「子ども用」ではなく、子どもの近くにいる大人が使うためのものです。夜中に地震が来て、私か妻がベビーベッドの脇で身動きが取れなくなったとき、手を伸ばせる場所にあるかどうか。そういう置き方をしています。
子どもに持たせるときに、必ず起きること
これは今の我が家にはまだ来ていない問題ですが、避けて通れないので先に考えました。子どもにホイッスルを持たせると、平常時に吹きます。確実に吹きます。楽しいからです。
吹いて遊んでいるうちに壊れる、なくす、というのも困りますが、本当の問題はそこじゃない。オオカミ少年になることです。日常的にピーピー鳴っていると、周りの大人が「またか」と反応しなくなる。本番で鳴らしても誰も振り向かない、という最悪のパターンがありえます。
対処として考えているのは3つ。まず物理的に吹きにくくすること。ケース付きのモデルを選ぶか、キャップをかぶせておくだけでも衝動的に口に入れる回数は減ります。次に、置き場所をランドセルの内ポケットのような「取り出すのに一手間かかる場所」にすること。すぐ手が届くと必ず遊びます。そして、吹いていい場面を具体的に言葉で決めること。「危ないとき」ではなく「暗くて誰もいなくて、大人を呼びたいとき」くらいまで具体化しないと、たぶん伝わりません。
それでも吹きます。吹いたら怒るのではなく、一度だけ一緒に思い切り吹かせて、これは遊びの音じゃないと体で分からせるほうが早いんじゃないかと今は思っています。実践はまだ数年先ですが。
最後に
ホイッスルは、防災グッズの中でもかなり地味な部類です。ポータブル電源のようにスペックで盛り上がることもないし、備蓄食のように賞味期限を管理する楽しさもない。5個で1,000円という金額は、ポータブル電源の30分の1以下でした。
それでも、我が家の防災グッズの中で「これがあったおかげで助かった」という結末に一番近いのは、たぶんこの200円の笛です。声が出せない状態でも助けを呼べる、というのは他のどの道具でも代替できません。
もちろん、一生使わないのが一番いい。鍵につけたホイッスルが何年も鳴らないまま毛羽立って、ストラップだけ交換して、そのうち存在を忘れる。それが理想の使い方です。使う日が来ないことに1,000円払った、という感覚でいます。
この記事は防災グッズの個別レビューです。3人家族で実際に揃えたもの全体と買う優先順位は防災グッズ 本当に必要なものリスト|3人家族で実際に揃えた全部にまとめています。

